大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(う)124号 判決

判決理由〔抄録〕

所論は、要するに、被告人はトラックを時速約二十五粁で道路中央部を運転進行してきたが、約三十米先方に自転車に乗って行く被害者を発見したので、再三警笛を鳴らして速度を十五粁乃至二十粁に減じ、被害者が道路左方に避けるのを見たため、トラックを道路右側一米四〇まで最大限度方向を換えてトラックと自転車との間隔を一米三〇にし、なお自転車は左側に方向を転じ、道路左側は三米二〇あり、通行人もなかったから、自転車は左方に避け得る十分な余地があったのである、かかる場合被告人が無事に自転車を追越すことが可能であると信じたのは当然であるのみでなく、一般自動車運転者として何人も被告人と同一の行動をとって少しも危惧の念を抱かないものとみられるから、本件の場合被告人の果した注意義務以上に法律上の義務があるということはできないのであって、その責任は阻却せられるべきものであるというのである。しかし、原判決挙示の証拠によれば、原判示の如く被告人がトラックを運転して時速約二十五粁で進行中、前方約三十米の地点に自転車に乗って行く被害者の後姿を発見したので、時速を約二十粁に減じ、警笛を鳴らしたが、避譲する様子もなく道路のほぼ中央を進行していたこと、約五米の距離に接近した際始めて後方を振向いたのでトラックの追進していることを気付いた筈であるのに、僅かに左側に寄ったのみでなおも避譲する気配がなく、そのふらつく様子からみて同人は酒に酔っていることが認められたこと、殊に同乗していた運転助手小林聖剛は被害者の自転車に乗っている様子がふらふらしていたので、運転者の被告人に対し酒に酔っているから危いなあと話すと、被告人はそうかも知れないなあと答えたこと、以上の各事実が認められ、記録に徴しても右認定に誤りがあることは認められない。ところで、進行中の自転車とその後から進行して来るトラックとの間隔(両車並行した場合の間隔)が一米三〇程度の場合には、時速二十粁という速度で車体の巨大なトラックが自転車を追越せば、自転車の搭乗者はトラック通過のあおりを喰い、周章して運転を誤り易く、ためにその際自転車をトラックに接触乃至衝突せしめ、その結果人の死傷を惹起することのあることは睹易い道理で、殊に本件の如く自転車の搭乗者が酒に酔っていた場合には右の危険は一層大きいことは勿論であるから、追越すトラックの運転者としては警笛を十分鳴らしてトラックの接近乃至通過を熟知せしめるとともに、その自転車が停止し又は十分な距離の個所に避譲して前記の危険の発生することがなくなったことを確めた後に通過するか、さもなくば何時でも接触又は衝突を避け得るように速力を減じ、且つ助手をして自転車搭乗者の動静に注目せしめる等の措置を講じて通過する注意義務のあることは条理上当然であって、単に所論のように時速約二十五粁を約二十粁に減じ、被害者を右側に避け、トラックと自転車との間隔を約一米三〇にした程度のみを以て事足るものというを得ない。

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